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フォー|ベトナムの朝を支える一杯と、家庭で作る鶏のフォー|DM0020

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透き通ったスープに、白く平たい米の麺。肉の上には青ねぎが散り、別皿の柑橘を搾ると、湯気の香りが少し変わります。

ベトナムの麺料理フォーは、見た目の簡潔さとは裏腹に、麺、だし、香味野菜、食べる人の好みが重なってできる料理です。

日本では鶏肉入りのやさしいスープを思い浮かべる人もいるでしょう。一方、ベトナムのフォーを語るうえでは、牛肉のフォー、北部と南部の食べ方、人々の移動によって広がった歴史も外せません。

器の中身が一種類に決まっているわけではないところに、この料理を知る面白さがあります。

今回は、その成り立ちと味の組み立て方をたどり、後半では日本の家庭で作りやすい鶏のフォーを紹介します。

丸鶏や骨から長時間だしを取る方法とは区別し、鶏もも肉と無塩チキンスープを使う家庭向けのレシピです。

白い平麺から知るフォーの輪郭と、その成り立ち

「フォー」はベトナムの麺すべてを指す名前ではない

フォーはベトナム語で「phở」と表記します。スープ麺に使われるバインフォー(bánh phở)は、米を主原料とする平たい麺です。同じ米の麺でも、細く丸いブンとは形が異なります。「米の麺だから何でもフォー」とひとまとめにすると、料理の特徴が見えにくくなります。

牛肉入りはフォー・ボー、鶏肉入りはフォー・ガーと呼ばれます。料理名を読むときには、まず肉の種類を見分けるだけでも選びやすくなるでしょう。

澄んだスープと米麺という共通点があっても、牛のだしと鶏のだしでは香りや口当たりが変わります。

麺には生麺と乾麺があります。料理研究家アンドレア・グエンのフォー用米麺の案内では、スープ用には比較的細幅の平麺、炒め物には幅広の麺を使い分ける考え方が紹介されています。

乾麺でもフォーは作れますが、幅や厚みで戻し方が違うため、袋の表示を読むことが最初の調理になります。

買う際には、商品名に加えて麺の断面と用途を確かめてください。平たいフォー用の乾麺を選べば、スープと麺を一緒に口へ運んだときの感覚がつかみやすくなります。そうめんや春雨でも温かい汁麺は作れますが、材料と食感が変わるため、今回のレシピでは置き換えません。

北部で形づくられた料理、ただし誕生の一点は決められない

フォーの起源は、北部のナムディンやハノイとの関わりで語られます。ベトナム観光当局の紹介は、フランス植民地期に牛肉の需要が増え、その骨などをスープに生かしたことを発展の背景として説明しています。米麺の食文化に、牛肉をめぐる食生活の変化が重なったという見方です。

ただし、発展の背景を説明できることと、最初の一杯を作った人物や年を確定できることは別です。

グエンのフォーの歴史についての解説も、誕生の正確な時期や経緯は明確でないとしています。十九世紀末から二十世紀初頭にかけての北部を重要な舞台と捉えつつ、単一の発明物語にはまとめないのが適切でしょう。

フランス語のポトフと結び付ける説明、中国の麺文化との関係を重視する説明もあります。しかし、似た音や似た料理があることだけで、料理全体の起源を証明できるわけではありません。

名称の由来と、材料や調理法が育った過程は、分けて考える必要があります。

牛肉の利用、米を麺にする技術、だしを取る工夫、街で食事を売る仕事。そのいくつかが交わる場所で、フォーは人々の食事として形を整えていったと理解できます。

ある国の料理をそのまま写したという説明より、地域の人々が手に入る材料と技術を組み合わせた料理として見ると、現在の多様さにもつながります。

一杯ごとに仕上げる料理という性格

フォーは、麺も肉も長く煮込んだ鍋をそのままよそう料理とは異なります。だしを用意し、麺を温め、肉と薬味を盛り、最後にスープを注ぐ。それぞれを別に整えて、一杯に組み立てるところが調理の要点です。

家庭で作るときにも、この順序が役に立ちます。スープがおいしくできてから麺をゆで始めれば、麺が待ちくたびれてやわらかくなるのを避けられます。香草をあらかじめ長時間煮込む代わりに仕上げにのせれば、肉のだしと生の葉の香りを別々に感じられます。

出来上がりの写真だけでは、すべての材料が同時に鍋へ入るように見えるかもしれません。

けれど、器に並ぶものが同じでも、加える時点で味は変わります。フォーを再現する入口は、珍しい材料を増やすこと以上に、麺、スープ、薬味の扱いを分けることにあります。

北から南へ、朝食から遠くの街へ広がった味

南北の違いは、味わうための目安

北部のフォーはだしの味を前に出す比較的簡潔な仕立て、南部では甘みを感じるスープや多彩な香草・添え物を伴う仕立て、という対比がよく紹介されます。

これは旅行先や料理店で違いを見つける目安にはなりますが、すべての店と家庭を二つに分類できる規則ではありません。

たとえば、卓上に甘いソースがあるからといって、必ず丼へ全部入れる必要はありません。まずスープだけを味わい、次に香草、最後に柑橘や辛みを少しずつ加えると、何がどう変わったのかを確かめられます。

肉だけをソースにつけて食べれば、だしの味を保ちながら変化をつけることもできます。

この順番は現地の唯一の作法という意味ではなく、初めて食べる人に向けた提案です。店の仕立てや同席する人の好みに合わせながら、一杯の変化を楽しめばよいでしょう。香草が苦手な人が最初から量を控えても、料理の輪郭は十分に味わえます。

人の移動が、料理の地域差を育てた

南部での展開を考えるときに重要なのが、1954年の分断に続く北から南への人口移動です。ミシガン大学大学院による食文化史研究の紹介では、人々が料理の知識を携えて移動し、南部の嗜好や食材と結び付く過程が説明されています。

料理は鍋や食器のような物としてだけ移るのではありません。だしの香りを判断する感覚、家族が好む甘さ、食べる直前に何を足すかといった知識も、新しい暮らしへ持ち込まれます。

材料を調達する場所が変われば、同じ料理名のもとで少しずつ違う一杯が生まれる余地があります。

その後、ベトナム国外のコミュニティにもフォーは広がりました。ナショナル ジオグラフィックの取材記事は、米国や欧州の事例を通し、移住者の出身地域や家族の味が各地のフォーに残る様子を伝えています。

「海外のフォー」と一括りにしても、その背景は一様ではありません。

遠くの街で出会ったフォーが、別の店で食べたものと違う。その違いは、単に再現の正確さだけで測れるものではないでしょう。どの地域の味を受け継いだのか、どんな材料が手に入ったのかを知ると、料理と暮らしの関係が見えてきます。

朝食としての顔と、家庭で作る楽しみ

ハノイのフォーは朝食の定番として紹介されますが、食べる時間が朝だけに限られるわけではありません。朝から肉と麺の入ったスープを食べるという習慣を知ると、日本で「麺料理は昼食」という印象を持っている人には、新しい食卓の選択肢にもなります。

一方、家庭で毎朝大きな鍋を仕込むことを前提にする必要はありません。グエンが記す家族の回想では、米国へ移った後、前日にスープを用意して翌日の家族の食事にするフォーが登場します。

それは一家庭の経験ですが、外で食べる日常食が、別の環境では家族で用意する特別な食事にもなる例です。

日本の家庭で取り入れるなら、休日の昼食として二杯分を作る方法でも十分です。香味野菜を焼く係、器と薬味を用意する係というように仕事を分ければ、最後の盛り付けを一緒に進められます。

大切なのは、現地の一日をそっくり再現することではなく、料理を成り立たせている手順を知ることです。

鶏もも肉で作るフォー・ガーの家庭向けレシピ

このレシピで残すもの、家庭向けに調整するもの

フォー・ガーには、丸鶏や骨付きの部位を使ってスープを取る方法があります。今回は二人分を作りやすくするため、骨なしの鶏もも肉と市販の無塩チキンスープを組み合わせます。

長時間煮出した骨のスープと同じ厚みにはなりませんが、鶏のうまみ、焼いた香味野菜、米麺という組み立てを体験できる方法です。

香辛料は、コリアンダーシードとクローブに絞ります。グエンの鶏のフォーの解説には、牛のフォーとは香辛料を使い分ける家族の方法が紹介されています。

一方、Hungry Huyのレシピには八角やシナモンを含む配合があります。鶏のフォーに一種類だけの香辛料の正解があるわけではありません。

以下はそれらの技法を参考に、日本の家庭用に分量と工程を設計したものです。

特定地域の標準配合や実地試作済みのレシピを意味するものではありません。液体スープの濃さ、肉の厚み、麺の商品差を確認しながら仕上げてください。

仕上がり:2人分/準備:15分/調理:約30分。乾麺に別途浸水が必要な場合、その待ち時間は加算します。

道具:容量2L以上の鍋、麺ゆで用鍋、フライパン、ざる、計量カップ、中心温度計、包丁、まな板、トング、丼2個。

材料

材料分量・条件
フォー用乾燥平米麺160g
鶏もも肉250g(骨なし・皮なし)
無塩チキンスープ900ml(調製済み液体)
水100ml+液量調整用適量
玉ねぎ100g(皮と根を除いた重量)
しょうが15g(洗って薄切り)
コリアンダーシード2g
クローブ1個(約0.1g)
魚醤15ml+味の調整用0〜5ml
砂糖3g
青ねぎ15g
パクチー5g(苦手なら省略可)
ライム1/2個(約30g・皮付き)

無塩チキンスープは、調製後の液体量が900mlになるものを使います。濃縮タイプなら商品の指示に従って薄めてから計量してください。

香草やセロリの香りが強い洋風スープは、仕上がりの方向が変わります。鶏の風味を中心とした製品が向いています。

魚醤はベトナムのヌクマムがあれば使い、なければタイのナンプラーで代用できます。両者は同一の商品ではなく、銘柄によって塩味や香りも違います。

最初から調整分まで全部入れず、最後に味を見て加える方式にします。

作り方

1.下準備をする

麺の袋で戻し方とゆで時間を確認し、浸水が必要なら先に始めます。青ねぎは小口切り、パクチーは洗って水気を取り、ライムはくし形に切ります。

玉ねぎは半分に切り、しょうがは薄切りにします。鶏肉は厚い部分を開き、厚さを約2cmにそろえます。生肉に触れた器具は、薬味や加熱後の肉には洗浄せずに使い回さないでください。

2.香りの土台を作る

油を引かないフライパンに玉ねぎの切り口としょうがを置き、中火で5〜7分、返しながら薄い焼き色をつけます。真っ黒に焦がさず、焼けたら鍋へ移します。同じフライパンでコリアンダーシードとクローブを弱火で30〜60秒ほど乾煎りし、香りが出たら鍋に加えます。

3.鶏肉に火を通す

鍋にチキンスープ900ml、水100ml、鶏肉を加えて中火にかけます。煮立ったらアクを取り、弱火で表面が静かに動く程度を保ち、12〜15分を目安に加熱します。

時間だけで判断せず、肉の最も厚い部分が中心75℃に達してから1分以上加熱してください。不足なら加熱を延長し、確認後に清潔な皿へ取り出します。

4.スープの濃さを整える

スープをざるでこし、玉ねぎ、しょうが、香辛料を除きます。液量を量り、足りなければ水を加えて合計900mlに整え、鍋へ戻します。魚醤15mlと砂糖3gを加えて温め、味を見て調整用の魚醤を0〜5ml加えます。鶏肉は扱える温度になったら清潔な器具で食べやすく切り、スープへ戻して温めます。

5.麺をゆでて盛り付ける

別鍋で米麺を商品の表示どおりに戻し・ゆで、中心に硬さが残っていないことを確かめます。袋に指示があればすすいでから湯で温め直し、よく水を切ります。温めた丼に麺を分け、鶏肉と熱いスープを盛り、青ねぎ、パクチーをのせます。ライムを添え、出来上がったらすぐに食べます。

鶏肉の加熱と食品の扱いは、厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」の考え方を踏まえています。澄んだスープに仕上げたい場合でも、安全に必要な加熱は省きません。

おいしく仕上げるために、味見する順番を決める

味が物足りないと感じたら、すぐに魚醤を増やす前に、スープの量を確かめます。今回の配合は仕上げの液量900mlが基準です。蒸発した分を戻さずに味付けすると濃くなり、反対に水を多く加えると鶏の風味まで薄まります。量を整えてから塩味を調整すると、次回も比較しやすくなります。

魚醤を加えたら、まずスープだけを味見し、次に麺と一緒に食べてみてください。汁だけでは少し強く感じる味が、麺と合わせると印象を変えることがあります。だからといって濃くしすぎず、自分が飲みやすい範囲を探します。

ライムは鍋全体に搾らず、器ごとに加えると二人の好みに対応できます。

香辛料の香りが強くなりすぎた場合は、次回の量や煮出し時間を減らします。今ある鍋へ砂糖や魚醤を次々足して打ち消そうとすると、別の味まで強くなりがちです。

今回の少量の配合から始め、気に入った比率を記録すると、家で作る一杯が定まってきます。

麺とスープを別に扱うと、失敗を減らせる

米麺をスープの鍋で直接ゆでると、製品によってはスープが濁ったり、麺が水分を吸って汁が足りなくなったりします。今回、別鍋でゆでるのはその変動を小さくするためです。鍋が一つしかない場合は、スープを清潔な耐熱容器に移し、鍋を洗って麺をゆでるなど、工程を分けてください。

麺を早くゆですぎることも避けたい点です。薬味、器、肉の用意を先に済ませ、最後に麺を仕上げます。ゆで上がった麺を長くざるに置くと固まりやすいので、盛り付けまで続けて作業できる段取りにします。二人分なら、丼を二つ並べて麺と具を等分してからスープを注ぐと進めやすいでしょう。

スープが少し濁ってしまっても、それだけで食べられなくなるわけではありません。見た目を澄ませようとして鶏肉を早く引き上げるより、必要な加熱を終えることを優先します。次回は沸騰後の火を弱め、鍋を激しくかき混ぜずに煮ると、仕上がりを調整できます。

保存と代替材料

麺を入れた完成品は、できるだけ作った食事で食べ切ります。保存する場合は、食卓に出していないスープと鶏肉を清潔な浅い容器に小分けし、氷水などで速やかに冷まして冷蔵します。

この家庭向けレシピでは翌日中に使い切る運用とし、麺と薬味は食べるときに用意してください。冷蔵していても安全を保証する期限ではありません。

再加熱はスープ全体を沸騰させ、鶏肉も中心75℃で1分以上加熱します。常温に長く置いたものや、食べかけの丼に残ったものは保存しません。大きな鍋のまま台所に置いて自然に冷めるのを待たず、小分けして冷やすことが大切です。

ライムがなければレモンで代用できますが、香りは変わります。パクチーは省略して構いません。

コリアンダーシードとパクチーの葉は同じ植物の異なる部位でも、香りと役割が違うため、同量で相互に置き換えません。粒の香辛料を使うことで、最後にこして取り除きやすくしています。

有塩のチキンスープしかない場合は、魚醤15mlをそのまま加えないでください。製品による塩分差が大きいため、魚醤を少量ずつ加える別調整が必要です。

今回の分量を再現するなら、まず無塩のスープを選ぶと、味の判断がしやすくなります。

まとめ|一杯の組み立てから、ベトナムの食卓へ

フォーは、米の平麺を肉のだしと合わせ、食べる直前に仕上げる料理です。その姿には北部での発展、南部への広がり、国外へ移った人々の暮らしが重なっています。

起源を一人の発明や一つの国からの借用で説明しきるより、食材と技術、人の移動が交わった料理として見るほうが、多様な一杯を理解しやすくなります。

また、北部と南部、牛と鶏、生麺と乾麺という違いは、優劣を決めるための区分ではありません。何のだしを中心に据え、どんな香りを添えるのかを知るための手がかりです。

料理店のメニューを選ぶときにも、家庭で一杯を作るときにも、その視点が役に立ちます。

今回の家庭向けフォー・ガーでは、鶏肉を十分に加熱し、スープの量を整え、麺は最後に別ゆでしました。

香草や柑橘を器ごとに加える仕上げなら、同じ鍋からよそった二杯にも好みが表れます。

まずはひと口、何も足さずにスープを味わう。そのあとで少しずつ香りを重ねていくと、フォーが単なる「やさしい味の麺」ではないことが分かります。

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