※ この料理のレシピは、PDFを無料でダウンロードできます。
白いご飯の横に、小さな皿に盛られたキムチがあります。白菜の葉にからんだ赤い薬味をひと口。歯切れのよさに続いて、唐辛子の香り、塩気、酸味が重なります。
同じ白菜キムチでも、漬けたばかりのものと時間を置いたものでは、驚くほど表情が違います。
日本では「辛い白菜の漬物」という印象が強いキムチですが、韓国の食卓ではもっと広い世界を持っています。大根のキムチ、赤くない白キムチ、汁ごと味わう水キムチ。
野菜の種類だけでなく、季節、調味料、食べるまでの時間によっても味わいが変わります。
その背景にあるのは、野菜を保存する工夫と、作ったものを分かち合う暮らしです。この記事ではキムチの歴史と食卓での役割をたどり、最後に、発酵を待たずに食べる白菜のコッチョリを紹介します。
熟成キムチとは違う、作りたてのみずみずしさを楽しむ家庭向けレシピです。
ひと皿では語りきれない、キムチの広い世界

白菜だけでなく、大根も、きゅうりも
キムチは韓国語で「김치」と書きます。塩漬けした野菜を調味し、発酵させるものを中心とする料理のまとまりで、使う野菜や漬け方は一つではありません。白菜のキムチは「ペチュキムチ」。白菜を株のまとまりを残して漬けるものもあれば、食べやすく切ってから作るものもあります。
白菜の白い軸には歯応えがあり、薄い葉には薬味がからみます。一枚の葉の中でも食感が違うため、口に運ぶ部分によって印象が変わるのが魅力です。一方、大根を角切りにしたカクテキでは、かむときの小気味よさが前面に出ます。
同じような赤い調味料を使っていても、白菜キムチをそのまま小さく切った料理とは違います。
韓国観光公社は、白菜、大根、きゅうりなどを使う多様なキムチを紹介しています。野菜の違いに注目すると、キムチを選ぶ楽しみは「辛いか、辛くないか」だけではなくなります。
やわらかな葉を食べたいのか、しっかりした歯応えが欲しいのか。食感から選ぶのも一つの方法です。
赤くないキムチと、汁を味わうキムチ
白キムチは、赤い唐辛子を使わない白菜キムチの一種です。赤色がなくても、白菜の漬物としての味わいや香味はあります。「赤くないからキムチではない」というわけではありません。
水キムチは、野菜とともに漬け汁も味わうタイプです。たとえばナバクキムチには薄切りの大根や白菜が使われます。汁気の少ない白菜キムチと同じ感覚で見るより、野菜と汁が一体になった一品として捉えると、その違いが分かりやすくなります。
食べ比べるなら、最初から何種類も大量に用意する必要はありません。いつもの白菜キムチに、食感の違うカクテキ、または赤くない白キムチを一つ加えるだけでも十分です。色、野菜の切り方、汁の量を見てから食べると、名前だけでは分からなかった特徴が見えてきます。
作りたてと熟成したものを同じ物差しで比べない
熟成が進んだキムチには酸味がありますが、作りたてのものは野菜や薬味の味がより直接的に感じられます。酸味が少ないから未完成、強いから必ずおいしい、という単純な関係ではありません。どんなキムチを、どう食べたいかが大切です。
食卓でそのまま食べたいときと、鍋や炒め物に使いたいときでも、求める味は変わります。熟成キムチを使う料理を、後ほど紹介する作りたてのコッチョリで作れば、同じ酸味にはなりません。それぞれの役割を知っておくと、料理の仕上がりを予想しやすくなります。
冬を越す工夫から、作って分かち合うキムジャンへ

古い野菜の漬物と、現在の赤い白菜キムチ
キムチの歴史を考えるときは、野菜を漬けて保存する文化と、現在よく見かける赤い白菜キムチの形を分ける必要があります。昔から野菜の漬物があったことと、昔から同じ白菜、同じ唐辛子、同じ味付けで作られていたことは別だからです。
韓国の国史編纂委員会が運営する「우리역사넷」は、キムチが冬の野菜保存と関わって発達したことを説明しています。一年中、同じように新鮮な野菜を手に入れられるとは限らない暮らしでは、収穫した野菜を先の季節へつなぐ工夫に大きな意味がありました。
唐辛子の利用も、長い歴史の中で加わった変化です。同機関の解説では、唐辛子が朝鮮半島へ伝わった時期や経路には議論があることが示されています。伝来と、キムチの材料として広まった過程を同じ出来事として扱うことはできません。
材料と製法が変わりながら現在の姿に近づいた料理として紹介します。
キムジャンで受け継がれるのは、材料の配合だけではない
キムジャンは、冬に備えてキムチをまとめて作り、分かち合う営みです。2013年には「韓国のキムジャン、キムチ作りと分かち合いの文化」がユネスコの無形文化遺産の代表一覧表に記載されました。
対象はキムチという商品の認証ではなく、人々が作り、分け、技術を伝える文化です。この登録は、国史編纂委員会のキムチ解説でも紹介されています。
大量の白菜を扱う作業を思い浮かべると、分量表だけでは伝わらないことがあると気づきます。葉のどこまで塩を行き渡らせるか。厚い軸がどの程度やわらかくなったら次へ進むか。薬味をどのように配るか。
こうした判断には、材料の状態を見る目と、作業を重ねる経験が関わります。
現代の料理家Hyosunさんも、自身の白菜キムチの記事で、母親が近所の人と助け合ってキムジャンを行っていた思い出や、自分が育った子どもたちへキムチを届けることを記しています。
一人の家庭の経験を韓国全体へ一般化はできませんが、作ることと贈ることがつながる具体例です。
家庭による違いも、料理の一部
キムチの薬味には、にんにく、しょうが、唐辛子に加え、魚介の塩辛や魚醤などが使われることがあります。ただし、すべてのキムチに同じ魚介が入るわけではありません。魚介を使わない作り方もあり、一つの配合だけを唯一の正解とはできません。
魚醤の香りがはっきりしたもの、野菜の味を穏やかに生かしたもの。それぞれを「本物かどうか」だけで判定するより、何を使い、どう食べるための味なのかを見る方が、料理への理解は深まります。
家庭で作るときも、材料を変更したなら、その変更によって何が変わるかを意識しておきたいところです。
キムチの味を組み立てる、野菜・塩・薬味・時間

塩を振ることと、味を付けることを分けて考える
白菜を塩に当てると、水分が出て葉がしんなりします。かさが減り、薬味をまとわせやすくなる一方、塩の残り方は葉の厚さや時間、水洗いの仕方によって変わります。塩漬け用の塩をすべてそのまま食べるわけではありません。
今回のレシピでは、最初に白菜へ振る塩と、薬味に加える魚醤を別の段階で使います。白菜を洗って水を切った後、いったん小さな一片を確認してから薬味と合わせます。こうすると、白菜に残った塩気と魚醤の塩気を重ねすぎる失敗に気づきやすくなります。
また、洗った後の水切りも味の一部です。ざるから水が落ち続けている状態で薬味を混ぜると、器の底に水がたまりやすくなります。味が薄いからと魚醤だけを足す前に、表面の水分が多すぎなかったかを振り返ると、次の一皿を改善できます。
韓国唐辛子は、コチュジャンとは違う材料
今回使うのは、韓国唐辛子の粉やフレークであるコチュカルです。赤い色だけでなく、唐辛子の香りと風味を加える材料です。商品によって辛さや粒の細かさが異なるため、「韓国産なら必ず辛くない」と考えず、表示を確認してください。
コチュジャンは、塩分や甘味を含むペースト状の調味料です。コチュカルを同じ重量のコチュジャンに置き換えると、水分も塩分も味の組み立ても変わります。
日本の一味唐辛子も辛さの出方が違うことがあるため、このレシピでは同量での置き換えを勧めません。
材料をそろえる段階で唐辛子を確かめる方が、混ぜ終わってから辛さを直すより簡単です。初めて購入する商品なら、まず少量の料理に使って特徴を知っておくと安心です。唐辛子を触った手で目をこすらないよう、和えるときは清潔な食品用手袋を使えます。
発酵で生まれる味と、和えたての味
世界キムチ研究所は、キムチの発酵に多様な乳酸菌が関わることを説明しています。熟成キムチの味わいには、材料を混ぜただけでは得られない時間の働きがあります。
ただし、家庭で野菜と薬味を混ぜて置けば、条件にかかわらず安全な発酵食品になるという意味ではありません。
今回紹介するコッチョリは、発酵を待たずに食べる料理です。韓国観光公社も、塩をした白菜を調味してその場で食べる、サラダに近い特徴のキムチとして紹介しています。
長く保存する熟成キムチの短縮版というより、作りたての葉の張りを楽しむ一品と考えると分かりやすくなります。
この違いは、家庭で作る目的を決める手がかりにもなります。今日のご飯に添える一皿が欲しいならコッチョリ。酸味を持つ熟成キムチが欲しいなら、その目的に合う製法や管理条件を備えた別のレシピが必要です。
家庭で作る、白菜のコッチョリ

レシピの位置づけと、作る前の準備
白菜のコッチョリは韓国語で「배추겉절이」。ここでは、Korean BapsangとMaangchiの公開レシピを比較し、白菜500gで作りやすい分量に調整しました。
米粉の糊や魚の塩辛を加える作り方もありますが、本レシピではそれらを使わず、市販の魚醤で味をまとめます。韓国の全家庭に共通する標準配合ではなく、本サイトの家庭向け調整です。実調理による試作は行っていません。
仕上がりは副菜として4人分。準備時間は約15分、和える作業は約5分です。別に塩漬け40〜60分と水切り10分が必要で、全体では約70〜90分を見込みます。加熱と発酵待ちはありません。
使う道具は、大きなボウル、薬味用の小ボウル、ざる、包丁、まな板、はかり、計量スプーン、清潔な食品用手袋、ふた付き容器です。生で食べる野菜を扱うため、生肉や生魚を切った道具と共用するときは、先に十分洗浄してください。
白菜は柔らかい内葉を中心に使うと、短い塩漬けでも食べやすくなります。
材料・副菜4人分
| 材料 | 分量・条件 |
|---|---|
| 白菜 | 500g(芯を除いた正味。柔らかい内葉を中心に) |
| 塩 | 15g(塩漬け用。後で洗い流す) |
| 小ねぎ | 20g |
| 韓国唐辛子・粗びき | 12g(キムチ用のマイルドなもの) |
| 韓国のいわし魚醤 | 15ml+調整用最大5ml |
| にんにく | 5g(すりおろす) |
| しょうが | 2g(すりおろす) |
| 砂糖 | 6g |
| 水 | 15ml(薬味用。洗浄用の流水は別) |
| 白いりごま | 3g |
魚醤はミョルチエクチョッなど、市販の調味用製品を使います。魚介アレルギーがある場合には使用できません。魚醤の原材料や塩分は製品ごとに違うため、調整用の5mlは必ず加える分ではありません。
1.白菜を洗って塩をする
白菜は葉をはがして流水で洗い、水を切ります。幅2〜3cm、長さ5〜6cmを目安に切り、大きなボウルに入れます。幅の広い白い軸は縦に切り、厚い部分ばかり大きく残らないようにします。
塩15gを数回に分けてまぶし、全体を軽く返します。40〜60分置き、途中で一度上下を返してください。葉がしんなりし、白い軸が少し曲がる状態が目安です。暑い室内では冷蔵庫で行い、時間だけで判断せず、軸の状態も確認します。
2.薬味と小ねぎを用意する
小ねぎを流水で洗って水気を取り、3cmの長さに切ります。小ボウルで韓国唐辛子12g、魚醤15ml、にんにく5g、しょうが2g、砂糖6g、水15mlを混ぜます。魚醤の調整用最大5mlと白いりごま3gは、まだ入れずに残します。
薬味は全体が湿った状態に混ぜておきます。白菜を塩漬けしている間に準備すれば、仕上げの作業が慌ただしくなりません。小ねぎと薬味は、白菜の準備が整うまで冷蔵庫に入れておきます。
3.白菜をすすぎ、水を切る
塩漬けした白菜を冷たい水で2回すすぎ、ざるへ上げて10分水を切ります。たまった水に白菜が触れ続けないよう、ざるの下のボウルの水は捨ててください。
軸の小片を味見し、塩辛ければ追加ですすいで再び水を切ります。強く絞ってつぶさず、表面の余分な水気を落とすのが目標です。水分が多い部分は清潔なペーパーで軽く押さえます。
4.薬味をからめる
洗浄したボウルに白菜と薬味を入れ、清潔な食品用手袋で、底から返すように混ぜます。赤い薬味が一か所に固まらず、葉と軸へ行き渡ったら小ねぎを加えます。白菜の葉を細かくちぎるほど強くもむ必要はありません。
一片を食べて確認し、塩気が足りない場合だけ魚醤を少しずつ加えます。追加は合計5mlまで。混ぜた直後に器の底が水っぽく見えても、すぐに調味料を足さず、まず白菜を一片食べて判断します。
5.ごまで仕上げ、食卓へ
白いりごま3gを混ぜ、食べる分を器に盛ります。出来たらすぐに食べられます。残す分は清潔なふた付き容器へ移し、速やかに4℃以下で冷蔵してください。常温で発酵させる工程は設けません。
作った当日に食べ切ることを基本にし、余った場合も冷蔵して翌日中までを本レシピの扱いの目安とします。これは熟成キムチの保存期間ではなく、生野菜の和え物として短く設定した目安です。
衛生状態や温度にかかわらず安全を保証する期限ではありません。食卓に出した残りを保存容器へ戻さないようにします。
水っぽさ、辛さ、代替材料を考える
水っぽくなる原因を減らすには、洗浄後の水切りと、食べ切れる量を作ることが大切です。後から出る水分まで完全になくそうとして、白菜を強く絞りすぎると食感が損なわれます。
時間がたてば状態が変わる料理なので、作りたての仕上がりを長期保存で維持しようとしない方が楽しめます。
韓国のいわし魚醤がない場合は、ナンプラーを代替として使えます。香りが異なるため同じ味にはなりません。最初は10mlに減らし、和えた後に必要なら最大5mlを追加します。この代替時の合計は最大15mlで、基本の魚醤量とは区別してください。
コチュジャンや一味唐辛子は、コチュカルと同量で代替しません。初めて作るときは指定の種類を使う方が、辛さと水分のバランスをつかみやすくなります。白菜を大根へ置き換える場合も、同じ塩漬け時間でよいとは限らないので、別料理のレシピとして考えましょう。
保存中にカビなどの異常があれば食べません。一方、見た目やにおいが正常でも安全とは限らないため、冷蔵を守り、長く持ち歩いたものや温度管理が分からないものを味見で判定しないでください。
まとめ|今日食べる一皿から、キムチの奥行きに出会う

コッチョリが出来たら、まずは温かいご飯と合わせてみてください。調味の少ない主食があると、白菜の甘味や薬味の香りを確かめやすくなります。汁物を添えるなら、キムチにも塩気があることを考え、食卓全体の味の強さを調整すると食べやすくなります。
和えた直後は、葉と軸で味の感じ方が違います。翌日に残りを食べる場合も、前日と同じ歯応えを求めるのではなく、水分や薬味のなじみ方が変わることを知っておくとよいでしょう。
ただし、今回のレシピは酸味が出るまで置いて育てるものではありません。熟成したキムチとは、食べる時期も保存の考え方も違います。
一度作ると、市販のキムチを見る目も少し変わります。白菜の葉の厚さ、薬味の細かさ、汁の量、魚醤の香り。何が自分の好みに合っていたのかを言葉にできれば、次に選ぶ一品も見つけやすくなります。
自分で作る日と買って楽しむ日があっても、そのどちらも料理を知る機会です。
キムチが韓国の食文化の中で形づくられてきた背景には、野菜を保存する必要、材料や調味の変化、そして作ったものを分かち合う暮らしがありました。その歴史のすべてを一度の調理で再現する必要はありません。
まずは今日食べる白菜の一皿を丁寧に作る。そこから赤くないキムチや、熟成の味へと関心を広げていけば、小さな副菜の向こうにある豊かな世界が見えてきます。
