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淡い緑色の汁に、鶏肉となす。見た目はやわらかそうなのに、口に運ぶと唐辛子の刺激が立ち上がり、そのあとにココナッツのこくとハーブの香りが続く。
グリーンカレーのおいしさは、そんな異なる感覚が一つの器に収まっているところにあります。
日本では「カレー」と聞くと、とろりとしたルウをご飯にかける姿を思い浮かべるかもしれません。けれど、タイのグリーンカレーを理解するには、色や辛さだけでなく、香りの材料をつぶすこと、ココナッツミルクで煮ること、主食と一緒に味わうことへ目を向けると分かりやすくなります。
名前に含まれる「甘い」は何を意味するのでしょう。どんな材料があの香りを作り、日本の台所では何を置き換えられるのでしょうか。
呼び名と歴史の手がかりをたどりながら、最後に市販ペーストで作る鶏肉となすのレシピを紹介します。
「甘い緑」の名前から、料理の歩みをたどる

ゲーン・キアオ・ワーンという呼び名
グリーンカレーはタイ語で「แกงเขียวหวาน」。日本語ではゲーン・キアオ・ワーン、ゲーン・キアウ・ワーンなどと表記されます。「キアオ」は緑、「ワーン」は甘いという意味です。鶏肉入りの名称には、鶏を表す「ガイ」が付くことがあります。タイ農業普及局も鶏肉入りを「Gaeng Keow Wan Gai」として紹介しています。
ただし、甘いという言葉だけで「辛くない料理」と判断するのは早計です。青唐辛子を使うペーストが味の土台になり、ココナッツミルクを加えても辛さは残ります。同じ名前の料理でも、唐辛子の種類、ペーストの量、汁の濃さで印象が変わるため、色の淡さを辛さの目盛りにはできません。
タイの公共放送Thai PBSの教育チャンネルALTVは、名前の「ワーン」を淡くやさしい緑色を表すものとして説明しています。
一方、現代の料理紹介には味の甘みと結び付ける説明もあり、砂糖を加える配合もあります。語の直訳、名前の由来、現在の味付けは、分けて考えると混乱しません。名前だけを理由に、砂糖をたっぷり入れる必要はないのです。
記録に現れる時期と、誕生した日は違う
料理の来歴を調べると、宮廷、交易、家庭の知恵など、さまざまな説明に出会います。しかしグリーンカレーについて、発明者や誕生した日を一つに定めるのは難しいところです。
タイ料理史を研究するHanuman Asplerは、グリーンカレーの記述が1926年の料理書に見られると説明しています。研究者本人のThaifoodmasterの公開紹介文と、National Geographicによる取材記事でこの説明を確認できます。
ただし、これは料理書の記録をめぐる説明であって、「1926年に初めて作られた」という意味ではありません。記録される以前に食べられていた可能性と、記録で確かめられる時点は別です。
また、古いレシピを紹介するThaifoodmasterには、1929年頃と1933年頃の資料に着想を得た、牛肉、オクラ、アーモンドなどを使うグリーンカレーの案内があります。
今日よく見かける鶏肉となすの組み合わせだけで、過去の姿をすべて説明できるわけではないことが分かります。この紹介から特定の民族や一人の料理人を唯一の発祥者と決めることもできません。
確実な年表がない部分を華やかな逸話で埋めるより、青唐辛子を使うペーストとココナッツミルクの組み合わせが、異なる具材や調理の工夫を受け入れてきた料理、と捉えるのがよいでしょう。古い記録に目を向ける意味は、現在の一皿を固定された唯一の形と思い込まないことにもあります。
緑色を作るもの、香りを重ねるもの

ペーストは青唐辛子だけではできていない
料理の緑色の主要なもとになるのは、ペーストに使う青唐辛子です。バジルやほうれん草で緑に染めることを、この料理の基本だと考える必要はありません。とはいえ、唐辛子だけをつぶせばグリーンカレーになるわけでもありません。
タイ農業普及局の紹介には、にんにく、シャロット、ガランガル、レモングラス、コリアンダーの根などが挙げられています。辛さを担うもの、香りを支えるものが集まり、一つのペーストになります。
ガランガルはタイ語でカーとも呼ばれる香味野菜で、日本でおなじみのしょうがと同じものではありません。見た目が似ていても、香りをそのまま置き換えられるとは限らないのです。
実際の家庭の調理を紹介するEating Thai Foodでは、乳鉢で材料をつぶしてペーストにする工程が示されています。そこにはコリアンダーシード、クミン、白こしょう、発酵えびペーストなども登場します。
生の香味材料だけでなく、乾燥スパイスや発酵調味料が組み合わさることで、刺激の向こうに厚みのある味が生まれます。
市販ペーストは、この細かな準備をまとめて引き受けてくれる材料です。タイ国大使館商務部が公開する家庭向けレシピも市販品を使っています。
自分でつぶさないから料理として劣ると考えるより、まず材料表示を読み、どんな香りと塩分がすでに含まれているかを知るほうが、実際の調理に役立ちます。えびなどの原材料を含むものもあるため、食物アレルギーがある場合は表示の確認も必要です。
ココナッツミルクは、こくと汁の濃さを決める
白いココナッツミルクが入ることで、ペーストの緑はやわらかな色合いになります。色は製品や配合でも変わります。写真の鮮やかな緑に合わせようと、葉物を大量に足さなくても大丈夫です。
ココナッツミルクを初めに少量使ってペーストを加熱し、そのあと残りの液体を足す方法は、香りを立たせる作り方の一つです。今回の家庭向けレシピでは少量の植物油も使い、焦げ付きに気を配りながら加熱します。
表面に油が浮く状態は調理の目安になりますが、それを見ようとして鍋を強火で熱し続けないようにします。
調理用の無糖ココナッツミルクと、甘い飲料、透明なココナッツウォーターは別の商品です。買い物では名前の似たものを選ばず、調理用であることを確かめましょう。
今回の配合はココナッツミルク400mlに水150ml。濃度を調整できるよう、水はさらに最大50mlを別に用意します。とろみを出すための小麦粉やカレールウは使いません。
なすとバジルは、同じ名前でも違いがある
タイのレシピには小さな丸なすや、粒の小さななすが登場します。日本で一般的な紫色のなすとは見た目だけでなく、食感も異なります。今回は手に入りやすい日本のなすを使い、汁を含んで軟らかくなる持ち味を生かします。現地の野菜と全く同じ仕上がりを目指した置き換えではありません。
葉の香りも大切です。タイのホーラパーと、イタリア料理などで使うスイートバジル、ガパオとして知られるホーリーバジルは、まとめて同じハーブとは扱えません。
ハウス食品が紹介する料理家のレシピでは、ホーラパーを基本としながら、スイートバジルの代用を認めています。今回はその家庭向けの考え方を採り、香りの違いは残ることを明記します。
こぶみかんの葉はバイマックルーなどと呼ばれ、柑橘の香りを添える材料です。入手できれば加え、なければ省略する形にしました。ライムの果汁を代わりにたくさん入れると、葉の香りを補うだけでなく、料理そのものの酸味が変わります。「同じ柑橘だから同じ働き」と考えないことも、代用品を選ぶこつです。
ご飯だけではない、タイの食卓での楽しみ方

汁と主食を、自分の一口に合わせる
グリーンカレーにはジャスミンライスがよく合い、タイではカノムジーンという米の麺にかける食べ方も知られています。料理家による紹介にはロティという薄焼きのパンとの組み合わせもあります。一つの料理名に、一つの主食だけが決まっているわけではありません。
家庭で最初に作るなら、温かいご飯を別に盛り、少しずつ汁を合わせてみるとよいでしょう。最初からご飯全体にかけるより、辛さや濃さを確かめながら食べられます。
ご飯の一部を白いまま残せば、香りの強い汁と米を交互に味わうこともできます。これは決まった作法としてではなく、初めての一皿を自分に合わせるための提案です。
米麺で試す場合も、すべての米麺がカノムジーンと同じ食感になるわけではありません。日本で手に入る乾燥米麺を使うなら、その製品の戻し方やゆで時間を優先します。
麺の水気を切ってから汁をかけると、器の中で水っぽくなりにくくなります。ご飯の代わりに麺を選ぶだけでも、同じ鍋の料理を違った形で楽しめます。
食卓全体で辛さを組み立てる
料理家の梅木幸恵さんは、タイの家庭には大皿の料理を各自で取り分ける食べ方があると紹介しています。グリーンカレーを一人分のカレーライスだけで考えず、ご飯と複数のおかずの組み合わせとして眺めると、盛り付けの幅も広がります。
日本の家庭で献立を組むなら、グリーンカレーに加えて、辛くしない蒸し野菜や、薄味の卵料理などを少量添える方法があります。
これはタイの定番献立をそのまま再現する提案ではなく、辛い料理を無理なく食べるための組み合わせです。副菜まで強く味を付ける必要はありません。
初めて作るときは、人数分の鍋すべてを辛くしてから直すより、ペーストを控えめにして仕上げるほうが調整しやすくなります。ココナッツミルクの白さを見て辛さが弱いと思い込まず、食べる人の好みを先に確かめましょう。タイ料理の味を知ることと、辛さを我慢することは別の話です。
また、鶏肉を抜くだけで必ず菜食料理になるわけではありません。ナンプラーは魚由来の調味料で、市販ペーストにはえびを使う製品もあります。食事上の制限に合わせる場合は、具だけでなく調味料も含めて見直す必要があります。今回のレシピは鶏肉とナンプラーを使うものとして設計しています。
市販ペーストで作る、鶏肉となすのグリーンカレー

ここからは、日本の家庭で取り組みやすく調整したレシピです。タイ国大使館商務部の家庭向けレシピなど複数の配合・工程を比較し、3人分の鍋として組み直しました。タイの丸なすを日本のなすに、ホーラパーをスイートバジルに置き換えています。
特定の家庭や店の味を再現したものではなく、実調理による試作は行っていません。
準備15分、調理約20分が目安です。炊飯時間は含みません。使う鍋、具材の温度や厚さで時間は変わるので、鶏肉の加熱と野菜の仕上がりを優先してください。
材料と道具
仕上がりは3人分です。野菜と肉の重量は、材料欄に示した下処理後の重さで量ります。
| 材料 | 分量 |
|---|---|
| 鶏もも肉(皮・骨を除いた正味) | 300g |
| なす(へたを除いた正味) | 180g |
| ゆでたけのこ(水気を切る) | 100g |
| グリーンカレーペースト | 30g(辛さ控えめは20g) |
| 無糖ココナッツミルク | 400ml |
| 水 | 150ml+調整用最大50ml |
| 植物油 | 10ml |
| ナンプラー | 10ml+調整用最大5ml |
| 砂糖 | 6g |
| スイートバジルの葉 | 8g |
| こぶみかんの葉(あれば) | 2枚 |
| 温かいご飯(別添え) | 450g(炊飯後) |
道具:直径20〜22cmの鍋、へら、包丁、まな板、計量器、中心温度計。
無糖ココナッツミルクは開封後に全体を均一にしてから量ります。ペーストは、具入りの完成ソースではなく、ココナッツミルクなどを加えて調理する濃縮タイプを使います。
商品の希釈割合や使用量が大きく異なる場合は、この配合をそのまま当てはめず、製品の案内も確認してください。
下準備と作り方
1.材料を切り分ける
野菜を先に洗って切る。なすは約3cmの乱切り、たけのこは薄切りにする。こぶみかんの葉は中心の硬い筋を除き、ちぎる。鶏肉は厚さ約1.5cmの一口大に切る。生肉用の器具と手は使用後に洗浄する。
2.ペーストの香りを引き出す
鍋に油10mlとペースト30g(辛さ控えめは20g)を入れ、弱火〜中火で約1分炒める。ココナッツミルク100mlを加え、焦がさないよう混ぜながら2〜3分加熱する。
3.鶏肉と野菜を煮る
鶏肉を加えて約1分混ぜ、残りのココナッツミルク300ml、水150ml、なす、たけのこ、こぶみかんの葉を入れる。沸いたら弱めの中火にし、ふたをせず8〜10分を目安に煮る。
4.加熱を確かめ、味を整える
鶏肉の厚い部分が中心75℃で1分以上になるまで加熱し、なすの軟らかさを確認する。砂糖6g、ナンプラー10mlを加える。必要ならナンプラーを最大5ml、水を最大50ml加え、再び十分に温める。
5.バジルを加えて盛り付ける
バジルの葉8gを加えて軽く混ぜ、火を止める。こぶみかんの葉は食べる前に取り除く。3等分して器に盛り、温かいご飯を1人150gずつ別添えにする。
中心75℃で1分以上という加熱の目安は、厚生労働省の家庭向け食中毒予防情報に基づきます。汁が沸いていることだけでなく、鶏肉の厚い部分まで確かめます。味見は肉に十分火が通ってから行い、生肉を扱った器具を盛り付けに使い回さないようにしましょう。
香り、辛さ、塩味を整えるこつ
ペーストは製品で辛さ・塩分が違います。初めての製品は20gから。油の分離が目立たなくても焦がすまで加熱しません。時間だけで判断せず、鶏肉の中心温度を確認します。
砂糖を加える段階では、まず記載量で仕上げてみます。辛さを消そうとして砂糖を増やし続けると、辛くて甘い味に寄ってしまいます。初回はペーストの量を控え、ご飯と合わせたときの味を見て、次に作る量を決めるのが取り組みやすい方法です。
塩味はペーストにも含まれているため、ナンプラーの調整用5mlは必ず使い切るものではありません。初めの10mlを加えて十分に混ぜたあと、必要な場合だけ少しずつ足します。使ったペーストの名前と量を控えておくと、次回の調整がしやすくなります。
汁が煮詰まったときは、調整用の水を少量ずつ加えます。逆に、汁が多く見えても、日本のルウカレーの濃さまで煮詰める必要はありません。なすの形が崩れ、鶏肉が硬くなるほど煮る前に、汁をご飯に少し合わせて食べやすさを確かめてください。
なすは約3cmを目安にそろえ、大きなものと小さなものが混ざりすぎないように切ります。鍋の中では強くかき回すより、へらを底から静かに動かします。食材の切り方と混ぜ方をそろえると、加熱のむらや煮崩れを抑えやすくなります。
残ったときの保存と、材料の置き換え
できたてを食べ、残りは清潔な浅い容器に小分けし、氷水などで速やかに冷やして10℃以下で冷蔵。家庭向けの目安として翌日中に食べます。再加熱はよく混ぜて全体を沸騰させ、具の中心75℃で1分以上を確認。室温で長く放置したものは食べません。
農林水産省は、カレーなどの煮込み料理を大きな鍋のまま室温で冷ますことによる、ウェルシュ菌の食中毒に注意を促しています。
今回の「翌日中」は家庭での運用を慎重にするための目安で、適切に冷やしていないものまで安全になる期限ではありません。保存すると決めた分は、食卓で長く置いてからではなく、早めに清潔な容器へ分けましょう。
タイの丸なすの代わりに日本のなす、ホーラパーの代わりにスイートバジルを使います。香り・食感は異なります。こぶみかんの葉は省略可。
タイの材料がそろったら、まずバジルだけをホーラパーに変えるなど、一度に一つずつ違いを確かめる方法もあります。何を変えたことで香りや食感が変わったのかが分かり、次の一鍋の選び方につながります。逆に、なす、ハーブ、ペースト、液体をすべて同時に変えると、この配合との比較が難しくなります。
まとめ|一鍋の仕組みが分かると、食べ方が広がる

グリーンカレーは、青唐辛子のペースト、ココナッツミルク、肉や野菜、仕上げのハーブが重なってできる料理です。淡い色だけでは辛さは分からず、名前の「甘い」だけでは味付けも決まりません。
料理の記録がいつ現れたのかと、実際にいつ生まれたのかも、区別して見ていく必要があります。
家庭で作るときの手がかりは、材料をすべてそろえることだけではありません。ペーストを焦がさず加熱すること、なすやバジルの置き換えによる違いを知ること、最後の塩味を一度に決めないこと。
そうした小さな判断が、食べる人に合う一皿につながります。
温かいご飯と少しずつ合わせても、別の機会に米麺で試しても、同じ料理の違う表情が見えてきます。緑の器を入口に、香りの材料や主食の組み合わせへ関心を広げてみると、タイの食卓が少し具体的に感じられるはずです。

